「寂しくなったね。」「見かけん顔だね?」
チッ、チッ…だいぶ片付いたね。ご苦労様です。「君って、そんな声で鳴くんだね。初めて聞いたよ。」
二十数年、ここで畑をやらせてもらっていた畑の返却に伴い、昨年暮れより毎日、少しずつ片付けに来ていて、ようやく目度がたってきました。1/ 20(水)、70〜80坪の畑はターサイの緑と僅かな水仙の緑を残すのみで、畑のイメージはすっかり、消えてます。
ターサイ
2月が旬の中国野菜で我が家では鍋料理にかかせません。
午後からは小春日和とまではいきませんが春を十分感じられます。お空も綺麗なブルー、真っ白な雲、太陽の光で明るい、気持ちがいい午後でした。午後4時頃でしたか、片付けを終えて帰ろうとした時、珍しいお客さんが、尋ねて来てくれました。竹林の中央に1mくらいの穴があります。タヌキらしきものの住処のようです。わたしは一度も見てませんが、私の畑の下で畑をされてるOさんが何度か目撃しているようです。珍しいお客さんとはタヌキのことで。小さな声でチッ、チッ..。
といいながら、上のほうからおりてきました。わたしを見ても逃げていきません。立ち止まって、わたしの顔を見て、又、かぼそい声でチッ、チッ..「どうしたの?」ほぼ全身の毛が抜けて象皮様に、胴体には無数のかき傷で、痛々しい姿です。どうやら、疥癬(かいせん)症か毛包虫(もうほうちゅう)症でしょう。栄養状態もよく無さそうです。主は思わず、「治療しましょうか?」と呟いた。すると向きを変え、チッ、チッと小声を発しながらトボトボ上がって行きました。なんか哀れで、姿が消えるまでジーと見守っていました。確か以前、H動物病院診療記2で「たぬきの交通事故」の記事を書いたよな。1993年4月を思い出しました。
ーたぬきの交通事故ー
日曜日の朝、瀕死状態のタヌキが動物病院に運び込まれた。I先生の適切な救急処置のおかげで、まずは、一命をとりとめた。翌日、X線検査を行い、脊柱が真っ二つに折れていることがわかった。無論、脊髄神経は完全に切れている生涯半身不随は免れない。
野生に戻っていけない。人の手助けがないと生きていけない。
安楽死も仕方ないと、その旨を連れてきたNさんに伝えました。
Nさんは最初、動物園の方で世話をしてもらうことを考えていましたが自分で責任持って世話をすることを決意したようです。
その熱意に心を動かされたこともあり、「お互いの立場で最善を尽くしましょう。」と言うことになり、数日後、脊柱をプレート(金属の板)で固定する手術を行いました。
無事手術も終わり、経過も順調で、痛みが取れたのか食欲も出てきて元気を回復していました。
このたぬきは、Nさんが世話に自信がつくまで、病院で生活することになりました。
ところが、ある日突然、タヌキは自分の右足のももの筋肉をかじり始めました。信じがたい光景です。
事故時、筋肉のダメージが相当大きく、徐々に組織が死んでいったことになります。
本能的に自ら体に不必要なところを切り離していたのです。
「今後は断脚手術が必要です。大きな手術をした後ですから体力的に心配です。「これ以上処置することが、果たして幸せな方法かどうか判りません、安楽死を考えた方が良いかもしれませんね。」と毎日看病に来てくれるNさんに伝えました。
このことを聞いて悟ったのか、翌朝、このタヌキは死んでしまいました。
不思議な思いが残りました。
私の動物病院は広島の東部、旧2号線沿いにあります。
犬猫の交通事故には割と遭遇しています。
先日のたぬきの件からわずか1週間もしないうちに、病院の前の道路上でタヌキがボロ雑巾のようになって引かれているのを見つけ、I先生と一緒に片付けました。たぬきの交通事故に出会ったのは開業20年になりますが、初めてのことです。
動物病院によく来るハスキー犬の飼い主のMさは、近くの向洋大原の海岸に以前から親子連れのタヌキが来ていましたが、最近見なくなったと言ってました。この辺も土地開発が進み、周辺の山々もどんどん切り崩され、ニュータウン作りが盛んです。その一方、静かに暮らしていた野生動物たちは住処を追われ、食料も手に入りづらくなったのか、人前に姿を現すようになったのでしょう。
“あなたは泉を谷にわきさせ
それを山々の間に流させ
野のもろもろの獣に飲ませられる。
空の鳥もそのほとりに住み、
こずえの間にさえずり歌う。こうの鳥はもみの木をその住まいとする。
高き山は山羊の住まい。
岩は岩ダヌキの隠れる所である。”旧約聖書の詩篇104篇の一節です。自然は人類だけのものではありません。
人は文明の名のもとに自分たちの生活圏だけはしっかりと確保し、ユートピア作りに精出しています。
万物の最高権力者として自負するのであれば、物言わぬ動植物のことを考える余裕が欲しいです。
長い年月をかけて作り上げた人類の業績をふり返ってみれば、知らず知らずのうちに地球環境のバランスを崩してしまい、自ら住みづらくしている昨今ではないでしょうか。動物たちは身をもって示してくれているのです。
今回のたぬきの事、以前、診療記に書いた大きな窓ガラスに写っていた樹木に間違って突っ込んで大怪我をしたハトも犠牲者です。
しかし、本当に哀れなのは人類の方かもしれません。大いなる警鐘として受け止めるべきで、人類のエゴは程々にして、物言わぬ動植物のお陰で、我々が生かされている事を痛感すべきではないでしょうか。
平成5年5月27日 記
あれから何十年の歳月が経ってますが、今回のタヌキさんの姿と小さな声のチッ、チッ…はもしかして、わたし達へのなんらかのメッセージだったのかもしれません。
「お世話になりました」畑の主より
*(2021.2.8 昼前で全ての畑の片付け作業、終了しました。)
令和3年2月15日 記