平野動物病院

内分泌疾患
2024年6月21日

犬、猫の体内に分泌しているホルモンの異常のことを「内分泌疾患」と言います。ホルモンによる異常は症状がわかりにくいので、日頃から飼い主様が注意深く動物の行動の変化に気づいてあげられることが大切になります。フードの与えすぎ・運動不足などの生活習慣でも内分泌の病気になることが多いので定期的な健康診断をお勧めします。今回はよくある疾患として甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能亢進症(クッシング)、副腎腫瘍、副腎皮質機能低下症(アジソン)、上皮小体機能亢進症、上皮小体機能低下症、糖尿病の概要を説明します。

甲状腺の病気

甲状腺機能低下症(犬で多い)
甲状腺が萎縮(なんらかの異常が起こり小さくなる)することで、分泌されるホルモンが低下する病気です。細胞の代謝低下、動物の精神状態や活動性に影響が出てきます。反応が鈍く、無気力になり、あまり食事を食べてないのに太り始めます。皮膚は毛が抜け、フケが増え、膿皮症など皮膚炎が起こることも多いです。甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモンなどの測定で診断されます。甲状腺ホルモン剤の投薬で改善しますが、生涯投薬が必要となります。

甲状腺機能亢進症(猫で多い)
甲状腺に腫瘍が発生し、それにより甲状腺ホルモンが過剰分泌される病気です。細胞の代謝が活発となり、食べても痩せる、よく吐く、多飲多尿、呼吸が早いなどの症状が見られます。甲状腺ホルモンの測定で診断され、抗甲状腺薬の投与を行います。可能で有れば腫瘍化した甲状腺を摘出することで完治が見込めます。

副腎の病気

副腎皮質機能亢進症(クッシング)

下垂体性
下垂体にできた腫瘍により、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されることで発症します。副腎皮質からステロイドホルモンが多量に分泌され、多飲多尿、多食、皮膚の脱毛、お腹の膨満(腹筋の緩み)などがみられます。腹部超音波検査、ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン抑制試験などを行い、コルチゾールの測定して診断していきます。場合によってはCTMRI検査を行い下垂体腫瘍の確認をします。治療は副腎のホルモン産生を抑制する薬を投与していきます。腫瘍が巨大で発作などの神経症状がみられる場合は放射線治療が適応となります。

副腎腫瘍

副腎に腫瘍が発生し、副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)が過剰に分泌される病気です。症状や診断方法は下垂体性と同様です。投薬治療をする場合もありますが、可能であれば手術での摘出を行う事で完治する可能性があります。ただし、悪性腫瘍の場合は再発や転移の注意が必要となります。

副腎皮質機能低下症(アジソン)

副腎皮質が突然破壊され、ステロイドホルモンが不足することによって起きる病気です。元気食欲の低下、嘔吐や下痢、多飲多尿、低体温、低血糖などの症状がみられ、ストレスが加わると悪化することが多いです。血液検査では電解質異常が認められることが多く、ACTH刺激試験でコルチゾールが異常に低ければ診断されます。治療はステロイド剤(酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン)の投与を生涯行っていきます。

上皮小体の病気

上皮小体機能亢進症
上皮小体は甲状腺に付着している臓器で、パラソルモンというカルシウムを調整するホルモンを分泌します。上皮小体が腫瘍化することでパラソルモンが過剰分泌され、血液中のカルシウムが異常に高くなる病気です。元気、食欲の低下、震えや虚弱、多飲多尿などがみられます。血液中のカルシウムやパラソルモンの測定を行うことで診断されます。点滴やステロイド、利尿剤、ビスホスホネートなどで内科治療を行いカルシウム濃度を下げていき、腫瘍化した上皮小体の摘出を行うことで完治が見込めます。

上皮小体機能低下症

特発性の上皮小体萎縮や甲状腺の手術で上皮小体を障害することなどを原因とし発症します。血液中のカルシウムが低下する病気で、最初は食欲不振や震え、痙攣などがみられ、重度にカルシウムが低下した場合は死に至ります。血液中のカルシウムやパラソルモンの測定を行うことで診断されます。緊急の場合は、血管からカルシウムの投与を行い、安定した段階でビタミンDやカルシウム製剤の内服に切り替えて治療していきます。

糖尿病

糖尿病はインスリンの絶対的または相対的な不足により、持続的高血糖をはじめとする代謝異常 を呈します。代謝異常の程度によって 無症状からケトアシドーシスや昏睡にいたる幅広い病態を示します。よくみられる症状として、多飲多尿、食べても痩せてくることが多いです。血糖値の測定、尿検査にて尿中の糖分を検出して診断していきます。原因として、インスリンを分泌する膵臓の細胞が変性することによるインスリン不足、肥満、発情による黄体ホルモンの影響()、クッシング症候群によるステロイド過剰の影響、下垂体腫瘍による成長ホルモン()などによるインスリン抵抗性、プレドニゾロンなどのステロイド治療によるインスリン抵抗性などがあります。糖尿病に罹患した場合は、血糖コントロールのためにインスリン療法が必要となります。インスリン抵抗性により糖尿病が発生している場合は、その原因に対する治療も行う必要があります。 インスリン治療を開始してもすぐには血糖値は安定しないことが多く、最初は定期的に血糖値をチェックし、適切なインスリンの量を調節していきます。血糖値が安定しない場合は、インスリンの種類を変更することもあります。