Something

Takeshi Hirano

ヒヨドリはメッセンジャー

12月初旬の比較的あたたかい朝のことでした。
自称、畑の主は自宅にあった芽の出たジャガイモを畑に持って行って、1個づつ丁寧に埋め込む作業をひたすらにやっていて、時が経つのを忘れるくらいだったんでしょう。
突然、1羽のヒヨドリが3メートル位の長い竹(柵に使用している)の先端に止まりました。
自分の上の方に気配を感じて、えっこらせで腰に手をあてて見上げたんです。
そして、畑の主はヒヨドリと会話を始めた様です。実はヒヨドリに関してはこの主、あまりいい印象を持っていません。それというのも丹精込めたブロッコリーを食い荒らしているんですヨ。ネットをかけて保護していても。
それに鳴き声も「ヒーヨ」「ヒーヨ」「ピッピッピー」甲高い声!内心、主はうるさいやつだなと思っていたようです。

ヒヨドリ:「下ばかり向いてないで、空を見上げてごらん!気持ちいいから」
畑の主:「そうだな、どれ新鮮な空気を一杯吸って、胸を拡げて・・・う~ん、気持ちいい」
ヒヨドリ:「うわさでは主は獣医さんだってねぇ?ワシらの病気を治してくれるんだよな?」
畑の主:「そうですけど。今はね、古希も迎え、第一線は1歩も2歩も下がってますがね、何らかの形で診療にもかかわってますヨ!」
畑の主:「それにね~私の獣医道は未完成なので内心、生涯現役宣言をして追及して納得したいんです。」
ヒヨドリ:「そうですか、いい事です。だけどねぇ、決して無理しちゃ駄目ですよ。健康(心も体も)には、人一倍気づかって…それが条件ですヨ!!」

Man;H動物病院H獣医;M
Dog;患者のセントさん;D

D:「先生,どうも腹具合いが悪るいんだが,診察してもらえんかな。人間様と違って,自分では不摂生はしていないつもりだがね。わしの飼い主様ときたら,テレビのコマーシャルを見て,いろいろと新しい餌の情報を仕入れてきては何やかんや買い求め,“ハーイ,マイ・ベービー”とかいって,俺様も初めは興味半分も手伝って,しかも,せっかくの事だから,おいしそうに食べては見せているがね。実際のところ,1週間に何回も繰り返されては,体具合が悪るくなるの,あたり前だよね。
 ところで,先生,飲み過ぎたのかい顔色悪るいよ。俺の体を見せるのにそんな体調で,ちゃんと診察出来るのかい?」
M:「よくわかるね。具合い悪るそうに見えますか?」
D:「さて,先生,俺っちの体をみてもらう前に,先生の体を診察させてもらうよ。白衣と聴診器かしな。
 どれどれ,胃腸障害の方は大したことないよ。肝臓も大丈夫。
 ところで,先生の事は仲間から,結構な腕利きと聞いていたけど,俺達動物に不安を与える様では先行き暗いよ。」
M:「君はきつい事をはっきりと云うね。」
D:「いいかい。人間ってね。俺っち動物達と違って地球上では随分いい目しているんだぞ。その事,わかっているのかい好いたとかほれたとかいって毎日,恋にあけくれて,俺っちは年2回の恋。しかも,子孫を残すという清い行為だぞ。車だって乗れるじゃーん。遠出も出来るじゃーん。うらやましい限りだよ。ところで,あんた方の文明とやらで,昔の様な自由な野生暮らしも出来ないし,俺達の犬生って一体,何によ。こうやって不満を先生にぶっつけても仕方ないんだがね。時の流れで,あんた方,人間様の元でペットとして暮らさねばならないんだから,ちゃんと責任もって行動してくれよな。まして,先生には命を預けている様なものだから。くどく云うけど,ちゃんと聞いとけよ。ヤァーヤァー,しゃべりすぎちゃって,聴診器をあてているのを忘れちゃった。俺っち。どれどれ,先生の腹,実に黒いね。」
M:「先生,聴診器で,腹の黒いのがわかるんですか?」
D:「君,何を云っているのかね!!人間様の診断基準とは違うんだから,余計な事を云うんじゃあないよ。ところで,腹が黒いというのは人間世界では確か腹黒いというのではなかったかな?腹黒いは医学的に云うと心の垢というのかね。俺っちは人の作った医学は知らんけんねェ。」
M:「ところで,Doctor ワン先生。私の病気は一体,何んなんですか?」
D:「先生の病気?う~ん。間違いなく心の病気だよ。心の病気直してから,俺っちの大事な体をちゃんとみてくれよな。処方せん書いとくから,自分で調合して飲むんだな。1週間后又,見てやるから。ちょっと待った!!先生の場合、薬では治らんかもしれんよ。心の垢ってやつは重症だから。ところで先生の年齢は?」
M:「この11月4日で45才です。」
D:「45年かけて心の垢,落しな。只し,こっちも痛みをがまんするのは1週間が限度だから。45年后は長すぎるから,気持ち丈でも入れなおして,日々精進して,俺たち動物の生命守ってくれよな。期待しているよ。それじゃあな。あばよ」

                                                  平成5.11.22

まだ動物の臨床医として、第1線でバリバリ毎日ハードな日々をこなしていた頃のことです。”忙”という字は”心”を”忘”れると書くんだな~と思い、ましてや忙し過ぎることになれば、体や心のいたるところに問題発生だと気付いたところで、自分の戒めが必要だと分かりました。常々謙虚に生きる為にはの思いの中から診療記の表紙にあえて、犬が人間を診察する絵を描いてみました。

早いもので上文を書いて25年も経ちます。
なぜ今、こうして取り上げたんでしょうかねぇ。
きっとヒヨドリが天国のセント君のメッセンジャーとなって私の頭上にやって来てくれたんでしょう。
ヒヨドリ先生の忠告をちゃんと聞いて精進し、少しでも社会にお役に立てればの願いです。
新たな年に向けてはばたきたいです。

1年間御愛読有難うございます。来年も宜しくお願いします。

平成30年12.21 記